音楽の授業や日常会話で誰もが口にする「ドレミファソラシド」。子どもの頃からあまりに身近なフレーズであるため、普段その言葉の出自を意識する機会は少ないかもしれません。実は、この音階の呼び名は英語でも日本語でもなく、およそ1000年前のイタリアで生まれた言葉に由来しています。
なぜイタリアで誕生した言葉が世界中で歌い継がれ、日本の音楽教育にも定着したのでしょうか。本稿では、中世の修道士が遺した驚きの誕生秘話から、各音の原義、英語(CDE)やドイツ語(CDEGAH)、日本の伝統的な「ハニホヘトイロハ」との違いまで、音楽史の知られざるドラマを徹底取材しました。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:「ドレミファソラシド」の発祥は11世紀イタリアであり、言語的ルーツはラテン語の聖歌にある。
- 要点2:英語圏の「CDE」や日本の「ハニホヘトイロハ」が固定の音高(音名)を表すのに対し、ドレミは本来音同士の相対関係(階名)を示すために開発された。
- 要点3:映画『サウンド・オブ・ミュージック』とペギー葉山による訳詞「ドレミの歌」の普及が、日本人の日常感覚にドレミを決定づけた。
【結論】「ドレミファソラシド」は何語?発祥は11世紀のイタリア
私たちが普段親しんでいる「ドレミファソラシド(Do-Re-Mi-Fa-Sol-La-Si-Do)」は、イタリア語として体系化された音名表記です。ただし、その厳密なルーツを辿ると、古代ローマ時代から中世ヨーロッパの教会で公用語として用いられていたラテン語の宗教音楽に行き着きます。
発案者は、中世イタリアのトスカーナ地方で活躍したカトリック教会の修道士であり、音楽理論家でもあったグイード・ダレッツォ(Guido d'Arezzo / 991年頃〜1050年頃)です。
グイードが生きた11世紀初頭、楽譜という概念はまだ未熟で、聖歌隊の少年たちは膨大な数の聖歌のメロディをすべて耳と記憶だけで暗記しなければなりませんでした。指導に莫大な年数がかかる現状に悩んだグイードは、「誰もが一目で音の高さを理解し、初見で歌える画期的な指導法」を考案しました。この教育システムこそが、現在のドレミの原型です。
【語源と誕生秘話】キリスト教の「聖ヨハネ賛歌」から生まれた理由
グイード・ダレッツォが音階の目印として選んだのは、当時聖歌隊がよく歌っていたラテン語の聖歌『聖ヨハネ賛歌(Ut queant laxis)』でした。この賛歌の各フレーズの歌い出しは、ちょうど1音ずつ階段を一段ずつ上がるように作られていたのです。
彼は歌詞の各節の頭文字(第1音節)を取り出し、音階の呼び名として当てはめました。当時のテキストを見ると、その構造が鮮明に浮かび上がります。
- Ut queant laxis(ウット)
- Resonare fibris(レ)
- Mira gestorum(ミ)
- Famuli tuorum(ファ)
- Solve polluti(ソル)
- Labii reatum(ラ)
- Sancte Iohannes(スィ/シ)
初期の段階では「ウト・レ・ミ・ファ・ソル・ラ」の6音(ヘクサコード)のみでしたが、後に最後の行「Sancte Iohannes(聖ヨハネ)」の頭文字を組み合わせた「Si(シ)」が7番目の音として追加され、現在の7音階が完成しました。
ドレミの各音に込められた意味とは?「Ut」から「Do」への改名ドラマ
『聖ヨハネ賛歌』の歌詞は、「聖ヨハネよ、あなたの僕(しもべ)が、その奇跡の御業を清らかな声で賛美できるように、汚れた唇の罪を清めてください」という祈りの言葉です。それぞれの音には、ラテン語の原義が息づいています。
| 音階 | ラテン語の原語 | 原義・日本語訳 |
|---|---|---|
| Ut(Do) | Ut(→ Dominus) | 「〜のように」(→ 後にラテン語で「主・神」を意味するDominusへ変更) |
| Re | Resonare | 「響かせる」「声を放つ」 |
| Mi | Mira | 「奇跡」「素晴らしいこと」 |
| Fa | Famuli | 「僕(しもべ)」「従者」 |
| Sol | Solve | 「解き放つ」「清める」 |
| La | Labii | 「唇」「口元」 |
| Si | Sancte Iohannes | 「聖ヨハネ」 |
最初の音が「ウト(Ut)」から現在の「ド(Do)」へと変わったのは17世紀のことです。イタリアの音楽学者ジョヴァンニ・バッティスタ・ドーニ(Giovanni Battista Doni)らが、「Utは母音で歌い出しにくいため、発声しやすい開口音のDo(主・神を意味するDominus、あるいは自身の姓Doniにちなむ)に変えるべきだ」と提唱したことで、国際的に「Do」が定着しました(※フランスなど一部の地域では、現在もUtの表記が残っています)。
【各国比較一覧】日本語の「ハニホヘトイロハ」や英語・ドイツ語との違い
国や音楽ジャンルによって、音階の表記法は大きく異なります。日本の学校教育ではクラシック音楽の伝統から「イタリア語(ドレミ)」と「日本語(ハニホヘトイロハ)」が混在し、軽音楽やポピュラー音楽の現場では「英語(CDE)」が主軸となります。
| イタリア語 | 英語 | ドイツ語 | 日本語(音名) |
|---|---|---|---|
| Do(ド) | C | C(ツェー) | ハ |
| Re(レ) | D | D(デー) | ニ |
| Mi(ミ) | E | E(エー) | ホ |
| Fa(ファ) | F | F(エフ) | ヘ |
| Sol(ソル/ソ) | G | G(ゲー) | ト |
| La(ラ) | A | A(アー) | イ |
| Si(スィ/シ) | B | H(ハー)※♭BはB(ベー) | ロ |
日本における「ハ長調」や「イ短調」といった調性の呼称は、伊呂波歌(いろは歌)の順序をそのまま西洋音階の「C=ハ、D=ニ、E=ホ...」に当てはめた明治時代の音楽取調掛(現・東京藝術大学の母体)による翻訳の遺産です。
また、吹奏楽やオーケストラでよく使われるドイツ語音名は、Bの音(シ)のナチュラルを「H(ハー)」、フラットを「B(ベー)」と呼び分ける独特の歴史的規則を持っています。
意外と知らない「音名」と「階名」の決定的な違い
音楽理論を学ぶ上で多くの人がつまずきやすいのが、「音名(Pitch Names)」と「階名(Syllable Names / Solfège)」の違いです。
- 音名(絶対的な名前):調性が変わっても絶対に変わらない「固有の音の高さ(周波数)」を指します。英語の「C・D・E」や日本語の「ハ・ニ・ホ」がこれに該当します。ピアノの鍵盤の「真ん中のド」は、どの調の曲であっても物理的に「C(ハ音)」です。
- 階名(相対的な名前):主音(トニック)を基準とした「音階の中での役割・位置づけ」を指します。「移動ド唱法」では、ヘ長調(F major)の曲の場合、ファ(F)の音を「ド」と読み替えて歌います。
グイード・ダレッツォがドレミを開発した本来の目的は、「どんな高さから始まっても、音と音の並び方のルール(全音・半音の関係)を直感的に捉えるための階名」でした。現代の日本では「ドレミ」を固定の音名として扱う「固定ド」の感覚が根付いていますが、世界的なソルフェージュ教育では音の機能を捉える「移動ド」の道具として重宝されています。
あの名曲「ドレミの歌」の由来とペギー葉山による日本語詞の誕生
日本人が「ドレミ」という音名にこれほど強い親しみを感じている背景には、世界的大ヒットミュージカルおよび映画『サウンド・オブ・ミュージック』(1959年ブロードウェイ初演、1965年映画公開)の劇中歌「ドレミの歌(Do-Re-Mi)」の存在があります。
作曲リチャード・ロジャース、作詞オスカー・ハマースタイン2世による原曲の英語詞は、「Doe(牝鹿)」「Ray(一筋の光)」「Me(私自身)」「Far(遠い場所)」といった同音異義語の英単語を散りばめた言葉遊びでした。
これを1962年にNHK『みんなのうた』のために日本語へ訳詞したのが、歌手のペギー葉山です。彼女は直訳にとらわれず、当時訪れていた劇団四季の稽古場近くの喫茶店で思いついた「ドはドーナツのド」「レはレモンのレ」という、日本の子どもたちの生活に根ざした親しみやすい言葉を紡ぎ出しました。この名訳によって、ドレミは単なる音楽記号を超え、国民的カルチャーとして定着したのです。
【ドレミファソラシドは何語?】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:なぜ英語圏ではドレミではなく「CDE」を使うのですか?
A1:英語圏でも合唱や歌唱指導の際にはソルフェージュとして「Do-Re-Mi」を使います。ただし、楽器演奏や楽譜表記、コード進行の分析においては、周波数が固定された「絶対的な音名」としてC・D・E・F・G・A・Bを用いるのが効率的であるため、用途によって使い分けられています。
Q2:ラの音が「A(第1文字)」なのはなぜですか?
A2:中世ヨーロッパの教会音楽において、当時歌われていた実質的な最低音(基準音)が「ラ(A)」だったことに由来します。オーケストラのチューニング(調律)で現在もオーボエが基準音として「A(440Hz〜442Hz)」を鳴らすのは、この長い歴史的背景を受け継いでいるためです。
Q3:フランス語やスペイン語でも「ドレミ」と言いますか?
A3:はい。イタリア語圏だけでなく、フランス、スペイン、ポルトガル、ロシアなどのラテン系およびスラブ系言語圏では、コードネームや音名の表記自体に「Do, Ré, Mi, Fa, Sol, La, Si」をそのまま使用します(例:ハ長調=Do Majeur / Do Mayor)。
まとめ:知れば音楽がもっと面白くなる「ドレミ」の奥深い世界
普段何気なく口ずさんでいる「ドレミファソラシド」は、11世紀のイタリアで修道士グイード・ダレッツォが祈りの歌から生み出した、人類屈指の音楽教育システムでした。
ラテン語の聖歌から始まった小さな試みは、1000年以上の時を経て世界共通の音楽言語へと進化し、現代のデジタル作曲や音楽教育の現場でも息づいています。ピアノの鍵盤に向かうときや好きな曲を口ずさむとき、その1音1音に秘められた中世のドラマや言語の変遷に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。 (出典: ドレミファ ソラシド は 何 語(Yahoo!ニュース))