平安時代を代表する随筆『枕草子』の中でも、高校の古文教科書や定期テストで頻出の章段が「宮に初めて参りたるころ」です。自信家で知られる清少納言が、宮仕えの初日には意外にも極度の緊張で恥じらい、震えていたという人間味あふれるエピソードが描かれています。
この記事では、「宮に初めて参りたるころ」の原文とわかりやすい現代語訳・あらすじをはじめ、初出仕の時代背景や清少納言の心情の移り変わり、中宮定子の気品あふれる配慮(神対応)を詳細に紐解きます。さらに、定期テストや大学入試対策に直結する品詞分解、敬語の識別、重要古語のチェックポイントまで網羅して解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:宮仕え初日の清少納言が極度の緊張と気後れで涙ぐむ様子と、それを優しく包み込む中宮定子の温かい人柄が鮮やかに描かれている。
- 要点2:テスト頻出の「絵」「三寸ばかり」「夜の御殿」などの場面状況や、助動詞の識別・敬語の方向(主体の特定)を整理することで得点力が大幅に向上する。
- 要点3:ただの暗記にとどまらず、平安貴族社会の出仕のプレッシャーと定子後宮の華やかなサロン文化を立体的に理解できる。
【3分で掴むあらすじ】「宮に初めて参りたるころ」の背景と全体の流れ
本作の舞台は、一条天皇の皇后である中宮定子(藤原定子)の後宮です。当時、定子のサロンは才気あふれる女房たちが集い、一条朝の文化的な中心地として華やいでいました。そこに20代後半から30歳前後で初めて出仕したのが清少納言です。
才女としての評判をプレッシャーに感じていた彼女は、初日の夜、定子の御前に呼び出されたものの、恥ずかしさのあまり顔を上げることもできず、几帳の陰に隠れるようにして縮こまってしまいます。そんな清少納言の緊張をほぐそうと、中宮定子は絵を見せながら優しく言葉をかけます。やがて夜が明けて御簾の隙間から光が差し込むと、さらに恥ずかしさは増しますが、初めて目にした中宮定子の神々しいまでの美しさに息をのむ——という、清少納言の鮮烈な宮中デビューの記憶が綴られています。
【原文・現代語訳対訳】清少納言の初出仕と中宮定子との運命の出会い
ここでは、教科書に掲載されている主要部分を場面ごとに分け、原文と現代語訳を対照して紹介します。
① 参内初夜の緊張と中宮定子からの問いかけ
【原文】
宮に初めて参りたるころ、恥づかしきことの多さにて、まづ涙の立ち出づるに、すべて夜の御殿にのみまゐりて、昼は出でず。御簾の内に引き入れさせ給へるに、絵など取り出でて見せさせ給ふ。「これがこと」など仰せらるるに、いと恥づかしければ、御几帳のうしろに隠れゐて、御手を出ださせ給へるを、ほのかに見奉る。
【現代語訳】
中宮様のもとに初めて参上したころ、気後れすることが多くて、まず涙がこぼれ出そうになるので、もっぱら夜にだけ(定子様のおられる)夜の御殿に伺候し、昼間は出仕しないようにしていた。定子様が私を御簾の中にお引き入れになり、絵などを取り出して見せてくださる。「これはこういうことですよ」などとお話しくださるのだが、私はたいそう恥ずかしいので、御几帳の後ろに隠れて座り、定子様が(几帳の隙間から)お出しになっている御手を、かすかに拝見申し上げる。
② 中宮定子の手元の美しさと高貴な雰囲気
【原文】
あたらしき御衣ども、重ねたる色あひなど、あやしきまで目もおよばず、いとめでたし。「これ、見給へ」など仰せらるるに、三寸ばかり出でたる御手、いみじく白う、愛敬づき、ふくらかに、ただいま見し絵の、まことの人の手ならむやうにて、あはれにうつくしと思ひつるを、いとど恥づかしと思へば、ただ「いかに」と仰せらるることを、聞こえさせむとすれど、声も出でず。
【現代語訳】
新しいお召し物の上品な重ねの色合いなどは、不思議なほど見慣れず目がくらむばかりで、実に素晴らしい。「これをごらん」などとおっしゃるのだが、(几帳の端から)三寸(約9センチ)ほど出ている御手は、たいそう白く、愛らしくふっくらとしていて、たった今見た絵に描かれている本物の人の手のようで、しみじみと可愛らしいと思ったものの、いよいよ恥ずかしいと思うので、ただ「どうですか」とお尋ねになるお言葉に、お返事申し上げようとするのだが、声も出ない。
③ 夜明けの焦りと定子の圧倒的な美しさ
【原文】
「暗くて、見え給はじ」とて、火近くともさせ給へるに、髪の筋も見ゆべき心地するに、また、いかに心まどひせらるらむ。夜昼あかず見奉らまほしう、言ふかひなきを、御前には、「思ひのほかに、いとけしうもあらず」と、ご覧じたるべし。
【現代語訳】
「暗くて見えないでしょう」とおっしゃって、(定子様が)灯火を近くに灯させなさると、私の髪の毛一本一本まで見えてしまいそうな気がして、またどんなに取り乱していただろうか。夜も昼も飽きることなく拝見していたいほどで、(私のような)取るに足らない者を、中宮様は「案外、それほど悪くもない(気立てのよい女房だ)」とご覧になっていたに違いない。
恥ずかしさで泣きそう?清少納言の心情変化と中宮定子の「神対応」を読み解く
この章段の最大の読みどころは、「極度の緊張で萎縮する清少納言」と「新入り女房を気遣う定子の細やかな優しさ」の対比です。
清少納言といえば、『枕草子』の他の章段では機知に富んだ受け答えを誇らしく語る場面が目立ちますが、この初出仕の場面ではまったく異なります。自分の容姿や立ち居振る舞いに自信が持てず、「声も出ない」ほど硬直していました。
一方の中宮定子は、緊張する清少納言をリラックスさせようと、あえて堅苦しい雑談ではなく、視覚的に楽しめる「絵」を見せながら優しく語りかけます。さらに手元が見えやすいように灯火を近づけさせるなど、常に相手の立場に立った配慮を見せています。この定子の気品と温かさに触れたことで、清少納言は生涯にわたる深い忠誠心と崇敬の念を抱くことになったのです。
【品詞分解と敬語解説】テスト頻出の助動詞「たる」「けり」と敬語の主体・客体
定期テストや大学入学共通テスト対策において、敬語の「種類(尊敬・謙譲・丁寧)」「誰から誰への敬意か(主体の特定)」は最重要ポイントです。
1. 敬語の識別一覧
- 参り(謙譲語):本動詞。清少納言から中宮定子への敬意。「参上する」。
- 引き入れさせ給へる(最高敬語:尊敬補助動詞+尊敬補助動詞):「させ給ふ」で中宮定子からのお導きを示す。
- 仰せらるる(尊敬語):「仰す」+尊敬の助動詞「らる」。定子の発言に対する敬意。
- 見奉る(謙譲語):「見」+謙譲補助動詞「奉る」。清少納言から定子の手元への敬意。
- 聞こえさせむ(謙譲語):清少納言から定子へ「申し上げる」。
- ご覧じたる(尊敬語):「ご覧ず」は「見る」の尊敬語。定子の認識に対する敬意。
2. 要注目の品詞分解ポイント
【用例】「引き入れさせ給へるに」
- 引き入れ:ラ行下二段活用動詞「引き入る」連用形
- させ:使役・尊敬の助動詞「さす」連用形(最高敬語の一部として尊敬)
- 給へ:ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形(尊敬補助動詞)
- る:存続・完了の助動詞「り」連体形
- に:接続助詞
【用例】「心まどひせらるらむ」
- せ:サ変動詞「す」未然形
- らる:自発の助動詞「らる」連用形(「自然と〜してしまう」)
- らむ:現在の原因推量・現在の推量の助動詞「らむ」連体形(「〜ているのだろう」)
【重要古語・文法ポイント】定期テスト・大学入試で差がつく頻出キーワード
文脈理解と現代語訳問題で必ず問われる重要単語を整理しました。
- 恥づかし(形・シク活用):(相手が立派で)気が引ける、気後れする。※現代語の「恥ずかしい(shame)」とはニュアンスが異なり、相手の高貴さに圧倒される意味を含みます。
- 夜の御殿(よのおとど):中宮や天皇の寝所。昼間は人が少ないため、恥ずかしがり屋の新入りが最初に控える場所として適していました。
- あやしきまで(連語):不思議なほど、並々ならぬほど。
- 愛敬づき(動・カ行四段):かわいらしさ、魅力がある。
- あはれに(形動・ナリ活用):しみじみと趣深い、心にしみる。
- 言ふかひなき(形・ク活用):取るに足らない、言っても仕方がない。清少納言自身の身分の低さや未熟さを謙遜した表現。
- けしうもあらず(連語):「怪しうもあらず」の変化形。それほど悪くもない、まんざらでもない。
【定期テスト対策】予想問題と記述対策で押さえるべき解答のコツ
学校の定期考査で実際によく出題される設問パターンと、満点解答のポイントをまとめました。
問1:「まづ涙の立ち出づる」とあるが、なぜ清少納言は涙が出そうになったのか?
【解答のポイント】
すべてが見慣れない宮中の華やかさと、中宮定子の高貴さに圧倒され、あまりの気後れと恥ずかしさ・緊張に耐えかねたため。
問2:「絵など取り出でて見せさせ給ふ」中宮定子の意図は何か?
【解答のポイント】
初出仕で極度に緊張し、萎縮している清少納言の気持ちをほぐし、親しみやすく打ち解けさせようとする配慮(心遣い)。
問3:「思ひのほかに、いとけしうもあらず」の主語と心情を説明せよ。
【解答のポイント】
主語は中宮定子。「事前に聞いていた評判よりも、素直で控えめであり、案外悪くない(好ましい女房だ)」と清少納言を評価している心情。
【枕草子「宮に初めて参りたるころ」現代語訳】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:清少納言はなぜ昼間ではなく「夜の御殿」にばかり出仕したのですか?
A1:宮中の作法や雰囲気に慣れておらず、他の多くの女房たちや殿上人の目に触れる昼間の出仕が恥ずかしくてたまらなかったためです。夜の御殿はプライベートな空間に近いため、定子への挨拶や仕官の第一歩として夜間に伺候していました。
Q2:定子の手元を見て清少納言が「絵のまことの人の手ならむやう」と感じたのはなぜですか?
A2:白くふっくらとして艶やかな定子の手が、まるで物語絵巻に描かれた理想的な美人の手そのもののように見え、現実離れした気品と美しさを感じたからです。
Q3:テストで「らる」の文法的意味を聞かれたらどう見分ければいいですか?
A3:「心まどひせらるらむ」の「らる」のように、心情動詞(思う、泣く、惑ふ等)に接続している場合は「自発(自然と〜される)」と判断するのが定石です。
まとめ:千年前のリアルな職場体験記から学ぶ平安文学の魅力
『枕草子』の「宮に初めて参りたるころ」は、単なる古典の学習教材にとどまらず、新しい環境に飛び込んだときの緊張や、優しい先輩・上司への憧れといった現代の私たちにも通じる普遍的な人間ドラマが詰まっています。
敬語の方向や助動詞の意味を正確に捉えながら、清少納言の初々しい心理描写を味わうことで、古文読解の楽しさとテストの得点力は確実に身につきます。文脈と単語をしっかり整理して、テストや受験対策に役立ててください。 (出典: 枕草子 宮 に 初めて 参り たる ころ 現代 語 訳(Yahoo!ニュース))