病棟や在宅医療の現場で受け持ち患者の「褥瘡リスク状態」に対する看護計画を立てる際、画一的な文面になってしまい悩む看護師は少なくありません。「2時間ごとの体位変換」や「発赤の観察」といった定型句を並べるだけでは、患者ごとの個別性や病態の変化を捉えきれず、実効性のあるケアに結びつかないのが実情です。
褥瘡予防の要は、リスクの早期発見と多角的なアプローチにあります。本稿では、ブレーデンスケールや日常生活自立度を用いた正確なアセスメントから、そのまま臨床現場で生かせる観察計画(OP)・援助計画(TP)・教育計画(EP)の具体例、さらには見落とされがちなケアの落とし穴までを体系的に解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:褥瘡リスクの看護計画は、ブレーデンスケールと日常生活自立度を掛け合わせた客観的アセスメントが立案の出発点になります。
- 要点2:好発部位の除圧だけでなく、皮膚の脆弱性に対応したスキンケアや低栄養(低アルブミン血症)の改善など内因・外因双方への介入が不可欠です。
- 要点3:最新の褥瘡予防ガイドラインを踏まえ、体圧分散マットレスの適切な選定と「背抜き」を取り入れたポジショニングが成否を分けます。
【アセスメントの根拠】ブレーデンスケール評価項目と寝たきり度判定の連動
褥瘡予防の第一歩は、標準化された褥瘡リスクアセスメントシートを用いた客観的な状態把握です。世界的に広く普及している「ブレーデンスケール」は、以下の6つの評価項目で構成されています。
・知覚の認知(圧迫による不快感に適切に反応できるか)
・湿潤(皮膚が汗や尿便にどの程度さらされているか)
・活動性(ベッド上か車椅子か、自力歩行が可能か)
・可動性(自力で体位を変えたり手足を動かせるか)
・栄養状態(通常の食事摂取量や経管栄養・点滴の状況)
・摩擦とずれ(シーツや衣類との摩擦、ベッド上での滑り落ち)
各項目を4点満点(摩擦とずれのみ3点満点)で採点し、合計23点満点中、一般病棟では14点以下(高齢者病棟や施設では15点以下)を高リスク群として捉えます。ここで重要なのは、合計点数だけで判断を終わらせないことです。たとえば合計点が16点であっても、「摩擦とずれ」が1点であれば、ベッドアップ時のズレ力に対するピンポイントな介入が求められます。
あわせて、厚生労働省の「日常生活自立度(寝たきり度判定)」の連動チェックも欠かせません。ランクB(車椅子への移乗や食事排泄に介助を要する状態)やランクC(終日ベッド上での生活)の患者は、自力での除圧動作が極めて困難です。身体機能の客観的な制限レベルを把握することで、看護計画の目標設定に説得力のある根拠が生まれます。
【見落としがちな盲点】仙骨部・踵骨部だけではない褥瘡好発部位と皮膚の脆弱性
「褥瘡好発部位といえば仙骨部と踵骨部」という認識は広く浸透していますが、臨床現場で思わぬ皮膚トラブルを招く原因の多くは、それ以外の部位への配慮不足にあります。
側臥位をとる患者における大転子部や外果部はもちろんのこと、見落としやすいのが後頭部、肩甲骨部、そして医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)です。酸素カニューラの耳介接触部、非侵襲的陽圧換気(NIPV)マスクの鼻根部、採血や点滴固定用のテープ留置部などは、骨突出部でなくても持続的な圧迫とズレによって容易に壊死へ至ります。
また、加齢やステロイド長期投与に伴う「皮膚の脆弱性(スキンテアリスク)」への警戒も必要です。角質層の水分保持能が低下した菲薄な皮膚は、わずかなテープ剥離やシーツの摩擦で表皮剥離を起こします。弱酸性の洗浄料を用いた愛護的な泡洗浄と十分な保湿、失禁に対する撥水性皮膚保護クリームの塗布を徹底し、皮膚バリア機能を維持することが予防ケアの死角をなくす鍵となります。
【看護目標の設定】短期目標・長期目標の立て方とDESIGN-R2020評価基準
看護計画における目標設定は、「褥瘡ができない」という抽象的な表現を避け、評価可能で具体的な指標を盛り込む必要があります。
・長期目標の例:「入院(療養)期間中、全身の皮膚統合性が保たれ、褥瘡の新規発生がない」「自力または介助下で安楽なポジショニングを維持し、皮膚トラブルなく過ごせる」
・短期目標の例:「骨突出部の皮膚に圧迫解除後30分以上持続する発赤(ステージI疑い)が出現しない」「発汗・失禁後30分以内に愛護的な皮膚清拭と保湿が実施される」「ベッドアップ時のズレ力解消(背抜き・足抜き)の手順が定着する」
万が一、発赤や皮膚損傷が疑われる場合には、日本褥瘡学会が策定したDESIGN-R2020の評価基準を共通言語として用います。深さ(D)、滲出液(E)、大きさ(S)、炎症/感染(I)、肉芽組織(G)、壊死組織(N)、ポケット(P)の項目から成り、小文字表記(軽度)か大文字表記(重度)かで重症度を数値化します。看護計画の段階からDESIGN-R2020の視点を取り入れておくことで、皮膚の変化を「なんとなく赤みがある」ではなく、体系的な経過観察へと昇華させることができます。
【そのまま使える看護計画】褥瘡リスク状態におけるOP・TP・EPの具体例
臨床ですぐに活用できるよう、褥瘡リスク状態にある患者を対象とした標準的な看護計画の枠組みを提示します。患者の個別要因(麻痺の有無、失禁頻度、栄養経路など)に応じて適宜カスタマイズしてください。
【OP:観察計画】
1. 全身の皮膚状態の観察(好発部位である仙骨部・踵骨部・大転子・坐骨部、医療機器接触部の発赤、びらん、硬結、浮腫の有無)
2. 圧迫解除後の皮膚色調変化(指押しテストによる消退しない発赤の早期判別)
3. ブレーデンスケールおよび日常生活自立度の定期的な再評価(週1回または病状変化時)
4. 栄養状態のモニタリング(食事摂取率、体重推移、血清アルブミン値、総蛋白、水分出納)
5. 失禁状況および便意・尿意の把握、排泄に伴う皮膚の湿潤状態
6. 疼痛や不快感の有無(自覚症状を訴えられない患者の不穏や体動の変化)
【TP:援助計画】
1. ケアスケジュールに基づいた規則的な体位変換の実施(基本は2時間毎、体圧分散マットレス使用時は状態に応じ調整)
2. 30度側臥位を中心とした体圧分散ポジショニング(クッションやピローを用いた局所の圧迫緩和)
3. ベッドアップ時および体位変換後の確実な「背抜き・足抜き」の実施(ズレ力の解除)
4. 毎日の皮膚清潔保持(微温湯と泡立てた弱酸性洗浄料を用い、擦らず押さえ拭きで洗浄)
5. 洗浄後の速やかな保湿剤塗布、失禁部位への撥水性皮膚保護剤の使用
6. 踵骨部の免荷(下腿下にクッションを敷き、踵をベッド面からわずかに浮かせる工夫)
7. 医療用テープ類の剥離時は皮膚保護剤を用い、テンションをかけずに低角度で愛護的に剥がす
【EP:教育・指導計画】
1. 患者本人および家族に対し、褥瘡発生のメカニズムと予防の必要性を分かりやすく説明する
2. ベッド上での自力除圧動作(可能であれば殿部を浮かせる、体位をわずかにずらす)の指導
3. 家族への正しい体位変換介助法およびポジショニングピローの当て方の指導
4. 骨突出部の赤みやかゆみ、違和感を感じた際は我慢せず直ちにスタッフへ伝えるよう促す
5. 栄養摂取の重要性を説明し、経口摂取が進まない場合の補助食品活用の相談
【物理的・全身的介入】体位変換2時間ルールと体圧分散用具マットレス選定の極意
長年、臨床の鉄則とされてきた「2時間ごとの体位変換」ですが、最新の褥瘡予防ガイドラインでは、単に時間だけを区切るのではなく、体圧分散用具(マットレス)の性能と患者の自立度に応じた柔軟なスケジューリングが推奨されています。
高性能な圧切替型エアマットレスを導入している場合、患者の状態が安定していれば体位変換の間隔を最大4時間程度まで延長できるケースもあります。不必要な頻回の体位変換は、患者の安眠を妨げ、せん妄や免疫力低下の引き金になりかねません。しかし、静止型ウレタンフォームマットレスを使用している場合や、骨突出が極めて著しい超高リスク患者においては、依然として2時間以内の除圧が基本原則です。
マットレス選定においては、以下を判断材料にします。
・静止型ウレタンマットレス:自力でわずかに体位変換が可能、ブレーデンスケール14点前後、寝返り時の安定性を重視する場合
・圧切替型エアマットレス:完全臥床、自力体動が不可能、ブレーデンスケール低値、多発する発赤や既存の褥瘡がある場合
ポジショニングでは、骨盤を真横にする90度側臥位は大転子部に過剰な圧力が集中するため原則禁忌です。骨盤を30度傾け、殿部筋層の厚い部分で支える「30度側臥位」を徹底してください。背もたれを上げる際は、ギャッジアップ後に必ず背中に手を入れてシーツと皮膚の突っ張りを外す「背抜き」を行うことで、皮膚深部の剪断(せんだん)応力を大幅に逃がすことができます。
【内因的アプローチ】低栄養とアルブミン値の改善策|多職種連携の鍵
どれほど完璧な除圧とスキンケアを実施していても、生体内部の防御機能が低下していれば、わずかな圧迫で組織壊死が進行します。特に低栄養状態(低アルブミン血症)は、組織の耐圧性を著しく減弱させる最大の要因です。
血清アルブミン値が3.0g/dL未満になると、膠質浸透圧の低下により全身性の浮腫が生じやすくなります。浮腫を伴う皮下組織は毛細血管の循環が阻害され、虚血に対して極めて脆弱になります。さらに、タンパク質やエネルギーの欠乏は、皮膚を構成するコラーゲン合成を阻害し、傷の治癒遅延に直結します。
栄養改善においては、看護師単独の介入には限界があります。NST(栄養サポートチーム)や管理栄養士と迅速に連携し、以下の対策を講じることが重要です。
・必要エネルギー量の再算出と、高エネルギー・高タンパクな濃厚流動食や栄養補助飲料の導入
・創傷治癒やコラーゲン合成に不可欠な微量元素(亜鉛、鉄)およびビタミンCの補充
・経口摂取不良時の食事形態の工夫(とろみ調整、好みの味付けの反映、食事姿勢の調整)
・脱水による末梢循環不全を防ぐための適切な水分補給管理
血液データや食事摂取状況の推移を看護計画のOPとして追跡し、栄養士や医師と共有しながらプランを更新していく動的なケアが求められます。
【褥瘡 リスク 看護 計画】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:入院時に褥瘡がない患者でも、全員に褥瘡リスクの看護計画を立てる必要がありますか?
A1:全員に立案する必要はありません。入院時のスクリーニング(ブレーデンスケールや寝たきり度判定)で基準点以下となった高リスク患者や、手術・急性増悪により急速にADLが低下した患者を対象に立案します。ただし、低リスクと判定された場合でも、全身状態の変化に応じて定期的な再評価を行うルール作りが必要です。
Q2:側臥位を保つと大転子部が赤くなってしまいます。どう対処すればよいですか?
A2:身体が真横(90度)を向いている可能性が高いです。大転子は皮下脂肪が薄く骨突出が強いため、直接圧迫すると容易に褥瘡化します。背部とベッド面の間に30度の三角クッションを差し入れ、体重を臀部の軟部組織で支える「30度側臥位」に修正してください。あわせて、体圧分散マットレスの圧設定が適切かどうかも確認が必要です。
Q3:皮膚の「発赤」と「初期の褥瘡(ステージI)」はどう見分けますか?
A3:「指押しテスト(ガラス板圧法)」を実施します。赤みのある部分を指先で数秒間軽く圧迫し、指を離した瞬間に白く退色すれば一過性の充血(正常な血流反応)です。圧迫しても赤みが消えず、持続する発赤であれば、すでに毛細血管が破綻している可能性が高く「ステージIの褥瘡」と判断されます。速やかに除圧と看護計画の修正を行ってください。
まとめ:個別性を捉えたケアプランが患者の皮膚と尊厳を守る
褥瘡リスクに対する看護計画は、単なる記録上の形式ではなく、患者の皮膚組織の破綻を未然に防ぐための実践的なロードマップです。ブレーデンスケールで特定された弱点に焦点を当て、外因である「圧力・ズレ・摩擦」の排除と、内因である「低栄養・低血流・皮膚菲薄化」への対策を統合した計画こそが実効性を持ちます。
患者の病態や活動性は日々変化します。立案した看護計画を固定化せず、皮膚の微細な変化を観察しながら柔軟にOP・TP・EPを更新し、多職種と協働しながら一貫したケアを届けることが、患者の尊厳とQOLを守る確固たる基盤となります。 (出典: 褥瘡 リスク 看護 計画(Yahoo!ニュース))